◆ ビールとワインを呑みながら ◆


大阪〜広島間 鈍行列車でぶら〜り一人旅





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(1)鈍行列車の旅をしよう!


鈍行列車の旅をしよう! と思いついた。
呑気に“ぶら〜り一人旅”である。
特急や急行を利用せずに普通電車を乗り継いで遠出をした、という過去の記憶をたどると、なんと大学一年と二年の夏休みであった。数十年前のはるか遠い昔のことである。

懐かしいねえ、あの頃。
髪の毛はふさふさで毛根から一本ずつ力強く伸び、腹回りには無駄な脂肪など一切ななく、体重は今よりも20キロは軽かった。
いやいや外見だけでなくて内面も違った。純粋で純白で無知で愚かで一直線で猪突猛進で、ああ〜、こう書き連ねていくだけでも恥ずかしい、真夏の太陽光線が海面に直撃反射してギラギラと輝くまばゆさにも似ていたあの頃。
青年というよりも、精神的に限りなく少年に近く、幼稚で元気だけがとりえの、我が黄金の時代であった。

もう一度、あの頃に戻りたいねえ。
鈍行列車の旅に出れば、忘れていた懐かしき黄金時代の自分が対面座席にひょいと座りそうな、そんな気さえするのである。
チャンスはそうそうない。
タイミングはそうそうやっては来ない。
そのトキを逃してはならないのだ。

と、待ち構えていたときだ。
平日の木曜日の晩にどうしても大阪から広島に帰らなくてはいけない用事が降って湧いたのである。
私は「よっしゃあ!」と心の中で叫び、木曜日と金曜日の連続二日間の有給休暇申請書を会社に提出した。
さっそくその日の夕方、本屋で「JTB 携帯時刻表 2006年5月全国版」(定価500円)を購入した。
時刻表をじっくりと眺めるのは久しぶりである。その昔、私は時刻表をみるのが好きだった。鉄道地図を目で追いながら駅を確認し、時刻表の中で電車を乗り継ぎ、遠くへと旅する夢をみたものである。
今でも時刻表をみるだけでなんだかワクワクドキドキしてくるではないか。


新幹線を使わずに、普通列車だけで、大阪から広島に帰る最高のルートはないかと時刻表をめくった。
だが、実際には時刻表を使うよりも、もっと簡単で確実にみつける方法があったのだ。
インターネットの「JRおでかけネット」である。これを利用すれば、あっと言う間に検索できるのである。意地悪く、もっと効率的な乗り継ぎ方法はあるのではなかろうか? と時刻表を隈なく探してみたが、やはりコンピュータの検索結果は完璧で、こいつには勝てないのであった。
その結果、一番早く広島駅に到着する無駄のないルートが判明した。

朝6時52分に大阪駅を出発し、11時56分に広島駅に到着する、というコースである。
乗り継ぎは3回、所要時間は5時間4分。最速、最短のルートでこれだけの時間がかかるのだ。快速を最大限利用し、乗り換えに要す待ち時間合計も13分という短さで、これだけの時間がかかるのである。
すごいではないか、時代に逆行したこの超スローペース。
ちなみに新幹線のぞみだと新大阪〜広島間の乗車時間は1時間20分である。3時間44分もの時間をオーバーして西へ西へとゆっくり下っていくのである。

私の計画を話すと、妻は瞳を輝かせて「面白そうじゃない、やってみれば!」と賛同してくれた。
ただ、そのあとの言葉が余計だった。
「もうこれ以上、歳をとったら絶対にムリだもんねえ〜」
娘は「ずる〜い、自分も行きたいよ〜!!」と不貞腐れていたが、学校のある平日ということで、シブシブと認めざるを得なかったのである。





(2)大阪〜広島 鈍行列車の旅(往路)


大阪 →→ 姫路 →→ 岡山 →→ 福山 →→ 広島
6:52
62分 7:54
7:57
84分 9:21
9:23
45分 10:08
10:16
100分 11:56
出発 新快速 乗換@ 普通
電車
乗換A サン
ライナー
乗換B シティ
ライナー
到着



というわけで、4月27日、木曜日、午前6時52分。私は大阪発・姫路行きの新快速に乗り込んだ。朝の早い時間だが、車内は通勤のサラリーマンばかりである。みんな冴えない顔をしている。小雨が混じる天気の中で眠くて暗い表情を浮かべている。
こんなことではいい仕事はできないだろうなあ、と旅人の私は一人心配するのであった。



ペットボトルのお茶を飲みながら、窓際の席で「ドタバタ移住夫婦の沖縄なんくる日和」という南国ガハハ的陽気文庫本を読む。時おり、顔を上げて通り過ぎる景色を眺める。じわりじわりと天気は回復へと向かっているようだ。
この新快速は普通列車の中でも最速の部類に入るのではなかろうか。各駅停車の普通電車だと姫路まで92分かかるところが、新快速はまるで急行電車の如くびゅーんと飛ばして62分で着いてしまうのだ。

午前7時54分、新快速電車は姫路駅に到着した。ここでの乗り換え時間は3分である。
当初のもくろみでは、私はここで姫路駅名物の駅そばを素早く1分30秒で食って、次の岡山駅行きの電車に飛び乗るつもりであった。
ところが、乗り継ぎの電車はとなりのホーム。しかも、終点姫路駅のホームは通勤、通学のサラリーマンと学生でごったがえしており、さながら牛歩の進み具合である。急ぎたいが前には進めない。階段を下りきったところで大部分の列が右へと流れ、やっと走ることが出来た。私はダッシュでとなりのホームの階段を駆け上がった。そして間一髪で岡山行きの普通電車に滑り込んだのであった。
本当にぎりぎりセーフだった。私が電車に乗ったと同時にドアが閉まり発車したのだった。

姫路から岡山までは各駅停車である。ここからが今回の旅の醍醐味である。
電車はゆったりと一駅ずつ進んでいく。やがて竜野駅に到着。竜野といえば、醤油とそうめんの名産地。私が愛用する調味料、ヒガシマルうどんス−プを作っているヒガシマル醤油株式会社の所在地である。ははあ、ここで作っていたんだあ、と妙に納得しながら外の景色を眺める。
三石に到着。私はちょっと前まで広島から岡山によく出張で来ていたので、兵庫県を過ぎて岡山の県境に入ったことがすぐにわかる。そこからは知った駅名ばかりが続き、じわりじわりと岡山中心部に近づいていることがよくわかるのだった。
そして9時21分、普通電車は岡山駅に到着した。ここでの乗り換え時間は2分と短いが、目の前に停車している電車なので余裕をもって移動ができ、海の臨める左側の座席に着いた。

9時23分、岡山発・福山行きの快速サンライナーが出発した。座席は二人掛けでゆったりしており、こいつはラクチンだ。ここでようやく一番前の車両にあるトイレに入り小便をすることができる。
45分間の快速電車は乗り心地も良くて実に快適。乗車時間は45分。すっ飛ばした駅はなんと9駅。あっと言う間に福山駅に到着した。

福山駅での乗り換え時間は8分。
10時16分、新山口行きのシティライナーに乗る。シティライナーというと、随分と速そうな名前だが、快速になるのは広島駅のすぐ手前からであり、福山〜広島間でパスするのはたったの3駅だけであり、ほぼ各駅に停車する。
この電車は4人掛けの向かい合わせの席であり、背中はほぼ直角。昔から山陽本線を走っていたオールドタイプである。こいつは疲れる。しかも、今回の移動中で100分というもっとも長い乗車時間である。だけどラッキーだったのは乗り込む客が少なくて、この間、ずっと4人席を一人で占領できたことだ。
向かいの座席に靴を脱いだ両足を伸ばして、本を読んだり、時おり山を眺めたり海を眺めたり川を眺めたりして時間を過ごす。

  

  

当初心配した5時間を超える長時間乗車による疲労度はまったくなくて、ぼんやりしている間に広島駅に到着した。気合いを入れて臨んだわりには拍子抜けした感じである。
一番つらかったのは朝から何も食ってなかったので腹が減ってしょうがなかったことだ。姫路での駅そば速攻食いという当初の計画が失敗したからである。
広島駅に着いたホームは一番線。ここには私が全国立ち食いうどんの中で一番旨いと認定しているうどん屋がある。
電車から降りるなり一目散にそのうどん屋へと向かった。

  

店の外の券売機で天ぷらうどん(320円)と鮭むすび(100円)のボタンを押す。
チケットをおばちゃんに渡し、天ぷらうどんと鮭むすびを受け取った。

七味唐辛子を振り、スープを啜る。こいつは旨い。天ぷらがフヤケる前に急いでかじる。よしよしと頷く。そしてうどんをつるつると啜る。やっぱり、最高である。どっちかというと以前よりもスープの味が濃くなって旨くなった感じがする。
鮭のむすびも絶品で、あまりにも旨いのでもう一個追加した。
そしてうどんスープの変化を楽しみたくなり、50円を足して生玉子を落としてもらった。おばちゃんは親切なことに、割った生玉子の上に熱いスープをかけてくれた。透明の白身の部分が白くなっていく。
うどんを玉子の黄身にからめて食うとさっきよりも更に旨くなった。今度からここでうどんを食うときは絶対に玉子を足したほうがいいな、と強く思ったのである。
私はうどんとむすびをかみしめた。あああー、大満足である。
まるで鈍行列車の旅のご褒美をもらったような気分で、広島駅を後にしたのであった。



大阪〜広島間
■ 所要時間:5時間4分
■ 出発から到着までの全駅=41駅
大阪・尼崎・芦屋・三ノ宮・神戸・明石・西明石・加古川・姫路・英賀保・網干・竜野・相生・有年・上郡・三石・吉永・和気・万富・瀬戸・東岡山・高島・岡山・倉敷・新倉敷・笠岡・福山・備後赤坂・松永・尾道・糸崎・三原・本郷・河内・入野・白市・西高屋・西条・八本松・瀬野・広島






(3)広島〜大阪 鈍行列車の旅(復路)


広島 →→ 岡山 →→ 相生 →→ 姫路 →→ 大阪
10:23
163分 13:06
13:10
71分 14:21
14:22
19分 14:41
14:58
60分 15:58
出発 シティ
ライナー
乗換@ 普通
電車
乗換A 新快速 乗換B 新快速 到着



そして、二日後、大阪に戻る日がやって来た。
広島で重要な用事を済ませた私はまたも広島駅の在来線一番線プラットホームに立っていた。
4月29日、土曜日、午前10時10分のことである。
立ち食いうどん屋の券売機の前に立った私は迷わず天玉うどん(370円)と鮭むすび(100円)のボタンを押す。カウンターでチケットと引き換えにもらったうどんをすばやくかきこみながら、むすびにかぶりつく。
電車の発車時刻まであとわずかだ。急いで食わないと間に合わない。だけど急いで食うのはもったいない。急ぎながらじっくりと味わう、という非常に難しい食い方を強いられるのであった。

ハフハフとうどんを啜りながら思ったことは、やはりこのうどんには天ぷらと玉子がドンピシャに合うということであった。そして、おそらくこの立ち食いうどんが日本一旨いに違いない! と再確認したのである。
こんなことを書くと、「一体お前は今まで何軒の立ち食いうどんを食ったことがあるのだ?」と巷の立ち食いうどん評論家から一斉に非難を浴びるかもしれない。
確かに私がこれまで食ったことのある立ち食いうどんの店なんて、せいぜい30軒がいいところだろう。それでも、この自信は、たとえ根拠がなかろうと、私自身のなかで揺るぎのないものとして長い年月をかけて確立されたものであり、断固としてこの主張を捻じ曲げることなどできないのである。


10時23分、岡山行きのシティライナーは広島駅5番線のホームから出発した。来たときと同様、シティライナーとは名ばかりで、3つの駅を通過しただけで、後はずーっと各駅停車の普通列車である。
とはいえ、いいことがひとつ。車両のタイプが進行方向に向かって2人掛けの座席であり、背もたれもほんのちょっと傾斜がついているので、随分と乗り心地がいいのだ。こいつはいいや、と一人喜ぶ。
何といっても岡山までのシティライナーは163分、つまり2時間43分という長い時間、直角の背もたれでないというのは本当に助かる。
車内の乗客も少なくて、2人用の各座席に1人という乗車割合なので、随分とくつろげる。これは新幹線よりもはるかにゆったりとしているぞ。
車窓を通り過ぎる景色は適度なゆるやかなスピードで流れていくので読書に飽きたら時おりぼんやりと外を眺めることが出来る。新幹線だとスピードが速い上にトンネルが多いのでこうはいかない。
それに新幹線だと車内に乗り込んだとたんに、一気に別の場所に引き離されたような遮断感を味わうが、鈍行列車は余韻を残しながらじわりじわりと想い出の地を離れていくという優しさがある。

電車は尾道駅に停車した。本当は、この駅で途中下車して、朱華園のラーメンを食いに行こうかどうしようか? と随分と迷ったのである。だけど1時間で帰ってこれるかどうか自信がなかったので見送ったプランであった。
尾道駅を発車して、しばらく走るとすぐ右手に行きたかった朱華園がみえる。うわーっ、すごい行列だ。店の前から商店街のアーケードまで客が並んでいる。ああ、ここで降りなくて良かった、と胸を撫で下ろしたのであった。

  
↑遠くからみる(左上)とよくわからないが、アップしてみる(右上)と朱華園に並ぶ大行列

13時6分、岡山駅に到着し、13時10分発の各駅停車相生行き電車に乗り継ぐ。
14時21分、相生駅に着き、14時22分発の野洲行き新快速に乗り換える。本当はそのまま座っていれば大阪に着くのだが、まだやり残りしたことがある。

そう、姫路駅のプラットホームの駅そばである。
ラーメンの麺のような黄色いそばに和風だしのつゆという、珍しい組み合わせのそばを食うのだ。
姫路駅には14時41分に到着して下車した。次の新快速が来るのは14時58分。17分の間がある。ポケット時刻表で調査済みなのである。

  

私は初めて姫路駅の駅そばの店に入った。たまたま14時から17時まではタイムサービスで駅そば330円が250円と安くなっている。何だか随分と得した気分だ。
私は駅そばの天ぷらを選んだ。これが一番の人気商品なのである。
なるほど、噂通り、中華麺のようなそばである。スープの色は関西にしては濃い目である。その上に天ぷらがのっかり、そして刻みねぎが散っている。
私はつゆを啜った。
うーん、これはいける。かなりの濃い口ではあるが、このスープは唸るほど、しみじみと奥深い旨さだ。
なるほど、これは評判になるはずである。
麺は確かに中華そばに近いタイプである。この和風スープだと、うどんの麺でも別に問題ないように思うが、昔からこの食感に慣れ親しんだ姫路住民にはこの黄色いそばでないといけないのだろう。
それにしても、このつゆは凄い。全国駅そばナンバーワンと言われるのも頷ける。
だが、繰り返し、しつこいようだが、駅うどんでは、やはり私的ナンバーワンは広島駅一番ホームの立ち食いうどんなのである。


駅そばの余韻をじんわりとかみしめていると、ホームに長浜行き新快速が滑り込んできた。
私はこの旅最後の普通列車に乗り込んだ。
姫路を出発したのが14時58分。そして、大阪駅に着いたのが15時58分であった。
往きと違って、帰りの全行程所要時間は5時間35分もかかった。
だが、往きと同様、疲労感はほとんどなかった。

それよりもまるで自分の足で大阪〜広島間を踏破したかのような達成感があった。ただただ車内では座席に座っていただけで、プラットホームではうどんを啜っていただけである。何もしてないのだが、普通の何倍もの時間をかけて移動したことに意義を感じるのである。一歩ずつ踏み締めて山陽道を制覇したかのようなマボロシの充実感があったのである。

別に新幹線に乗らずに普通電車で大阪〜広島間を往復することなど、何の自慢にもなりはしない。誰でもやれば出来ることである。だけど、自分の年代の中年オヤジにはバカバカしくてなかなか出来ないように思うのだ。

忘れ去った遠い昔の、真夏の太陽の黄金の輝きを、ぐいっと掴むような体験はできなかったが、なんだかカタチに現れないナニモノカに出会えたような気がした。
ひょっとしたらあと二、三十年後になったら今のこの時期が我が人生の第二次黄金時代だったなあ、と振り返ることがあるかもしれない。それともただのバカだったなあ、と嘆くことになるかもしれない。

よくはわからないまま、私は大阪駅のプラットホームに降り立った。
大阪駅の改札口を出たところには妻と娘が迎えに来ている。
二人には何の土産もないが、この鈍行列車の一人旅の土産話をしよう。
そうだ、ニューミュンヘンで冷たい生ビールをぐいぐいと呑みながら、妻と娘に今回の旅自慢を少々オーバー気味に語ろう。
落ち着くところ、今の自分にとっての終着駅は、妻と娘のいるトコロである。
時間をかけて一つずつ積み重ねた結果が今ここにあるのだ。
数十年前には考えもしなかった「家族」、との待ち会わせ場所に私は急いだ。



広島〜大阪間
■ 所要時間:5時間35分
■ 出発から到着までの全駅=49駅
広島・瀬野・八本松・西条・西高屋・白市・入野・河内・本郷・三原・糸崎・尾道・松永・備後赤坂・福山・東福山・大門・笠岡・里庄・鴨方・金光・新倉敷・西阿知・倉敷・中庄・庭瀬・北長瀬・岡山・高島・東岡山・瀬戸・万富・和気・吉永・三石・上郡・有年・相生・竜野・網干・英賀保・姫路・加古川・西明石・明石・神戸・三ノ宮・芦屋・尼崎・大阪






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ここまで読んでくれて有難う!!